フィーリング
シュガー


「お前、その鼻でまともに恋愛できんのかぁ?」
「何じゃ、薮から棒に」


仕事終わりに、月一恒例で飲みにやって来た社長に秘書、1番ドック職長5人と
最初こそ、今月の搬入件数やら何やらといった会話を交えつつ和やかに飲んでいたのだが、
このところ、ギャンブルでの負けがかさんでいたストレスからか、
一人ガシガシとピッチを上げていったパウリーが早々にも完全に出来上がり、
周囲のテーブルからほろ苦い苦笑をかうレベルの醜態を曝していた。


「だってなァ?」


真っ赤な顔。
重そうな瞼。
呂律の回らない口。

まさに酔っ払いの典型的要素を尽く備えたパウリー。
それにベッタリと一方的にも肩を組まれ、その上で執拗に絡まれれもすれば、
さすがのカクも、今や辟易とした表情を隠さずむしろ露にさえしていた。


「キスすんのにも一苦労だろーよ」
「余計なお世話じゃ」
「角度付ければ問題無いってか?」
「お前な…もういい加減にせんか」


あまりに下世話な物言いに、さしものカクも不愉快げに顔を顰める。
しかし既にすっかり出来上がってしまってるパウリーは全く気付いた様子も無く、
更に調子に乗ってギャハハとひとしきり大声で笑うと、
バンッ!とジョッキをテーブルに叩き付け、向かいに座る同僚へと話を振った。


「お前、カクが彼氏だったらどうやってキスするよ?」


そこに座っていたのは
飲み屋ながらもアルコールには一切口を付けず、
パウリーの暴走っぷりに苦笑しつつカリファと静かに食事をしていた彼女は、
突然話を振られて、きょとんと停止する。
カクが、カチーンと音を立てて硬直した。


「なァ、どうするよ?」


ルルが「おい、その辺にしとけ」と嗜めるが効果無し。
カクが何やら黒いオーラを帯び始めたのにもやはり気付かず、
パウリーがけけけっと笑って再度問いを投げ寄越す。
するとは、ふむと一度グラスの中を覗き込んだ。
そうして再度顔を挙げると、
問うたパウリーではなくその右隣へと向かってことりと首を傾げて。





「ほっぺた…とか、ダメですか?」





他意も無く、しっかりとカクの目を見てそんなことを言った。





「───…」
「ほっぺた! 俺はオッケーだぜ!」
「パウリーさん、もうその辺にしといた方が…」
「おしっ、いっちょいっとくか!」
「へ?」
「遠慮すんなって、ほら…───でェッ!!?」
『クルッポー! に絡むな、顔を寄せるなこの酔っ払い』
「〜〜痛ってェッ!! あにすんだよッ…って、い"──ッ!?」
「教育的処置よ」
「おま…っ、グラスごと投げるたァどういう了見だよ!?」
「頭を冷やせってことだろうな」
「がっはっは! 瓶でなかっただけマシと思えや、パウリー!」


酔ったパウリーへの教育的指導、もとい文字通りの鉄槌が飛んでいるその横で。





「───…参った」
「ンマー、お前も大概にゃ適わねぇなァ」





片手で真っ赤な顔を覆ったカクを見て、アイスバーグが静かに笑った。



上述の文章から6人の座り位置を予想しよう!(超無謀)
正解:パウリーから時計回りにカク→アイスバーグ→カリファ→
   ヒロイン→<ルル→タイルストン>→ルッチ

元ネタはオフ友の夕無ん。
ヤツめ、大戸屋で夕飯一緒に食ってる時に「そういやカクってチューすんのも大変そう」とか、
「角度付けるにしても直角?」なんて、何の脈絡も無く実に平静とのたまいやがりましたよ。
思わず吹き出しちまったアタイの温泉卵を返せ…!(笑)

image music:【Key to my heart.】_ 倉木麻衣.