02.


「ふざけんなッ!!
 女の大工職なんざ冗談じゃねぇ!!」


初の女性職人に、のっけから軽視発言を提したのはやはりというかパウリーだった。


「そう言うな、パウリー。
 彼女の能力は俺が直に確認している。
 実に優秀だ。センスの方も抜群と言っていい」


対して、パウリーの反応など大方察しがついていたのだろう、
冷静に口を開いたのはアイスバーグ。
そしてその脇には渦中の少女。
社長直々にもと紹介されたその少女は、
軽く睨むような鋭い眼差しを寄越すパウリーにも特に怯えた様子も無く、
静かに職長一同と社長、秘書のやりとりを見守っていた。


「それに向上心も有る。性格の方も真面目だしな?」
「ええと…ありがとうございます」


社長に頭を撫でられ、少し照れたような表情を見せた少女。

この辺りでは珍しい白い肌。
長く真っ直ぐで艶やかな髪。
年頃のほっそりとした四肢。
お世辞にも大工向けの体つきとは言えない。


「しかし造船所は男の職場です!
 非力な女が通用する世界じゃないでしょう!!」
「ンマー、確かに彼女は俺達と比べれば非力だがな。
 それを補えるだけの、非力さをハンデとしないだけの技量とセンスがある。
 だからこそ俺は彼女を雇うことを決めた。俺の裁量に不満か?」
「そういうワケじゃありませんけど…」


自身も天才的な職人であるアイスバーグの、職人を見るその目は確かだ。
職人の素質・器量を見抜くその眼力は至極正鵠を得ていて、
その正確さは時として機械的ですらある。
職長達としても、それに異論を差し挟むつもりはなかった。
けれど。
目の前に居るのは、見ての通りの少女。
しかも頭に『清楚』なる単語が付きそうなレベルである。

正直なところ、パウリー以外の職長にしても半信半疑といったところだった。


「彼女にはとりあえず、カクの元で一から大工職について学んで貰おうと思う」


そんな職長達の心境を知ってか知らずか。
否、知ってのことなのだろう。
パンパンと2回手を叩くとアイスバーグは即座に配属を決定した。
そして「カク」と一言手短に呼ぶと、その眼前へとを引き出した。


「ココロばーさんの御墨付きだ。しっかりと鍛えてやってくれ」
です。これからお世話になります」


ぺこりと一つ、礼儀正しくも丁寧なおじぎ。
その声は職長一同の予想を軽く裏切って、柔らかながらとても落ち着いたもので。


「どうぞよろしくお願いします」
「ああ、よろしく頼む」
「おい! カク!」
「何じゃ?」
「『よろしく頼む』、じゃねぇだろうが!!」


ともすれば、非難の矛先は転じてカクへ。
平然と「よろしく」とのたまい、且つ自ら握手の手など差し出したカクが、
女性職人反対派単独急先鋒のパウリーには気に入らなかったのだろう。
他の職長達の盛大な溜め息を背景に、
パウリーは実に男らしく大胆且つ簡潔にこう宣言した。


「俺は嫌だね!!」


二度目のそれは、職長達だけでなく社長と秘書の溜め息も重なった。


「パウリー。
 彼女には確かな能力と才能があるとアイスバーグさんも言うとろうが。
 ここが腕一本の職人の世界だということはお前もよう判っとるじゃろう。
 そこに男女うんぬんは関係なかろうて」
「けどよっ」
「そりゃあ腕っぷしが有るに越したこた無いんじゃろうが、
 しかし女じゃからとて頭ごなしに否定するのは如何なものかと思うぞ」
「だからってなぁ…!」


完全に傍観を決め込むことにしたらしいその他は、黙って二人の問答に耳を傾けている。
それは、カクがガレーラきっての"調停役"だからだった。
普段から、職人同士のちょっとしたいさかいはカクの説得に解決を任せている節がある。
本人の冷静な性質に加え、年齢不相応の何とも年寄りじみた口調が、
その説得の効果に拍車を掛けているらしいのだ。

と。
二人の押し問答に挟まれていたが、
パウリーの方へと一歩踏み出し、柔らかな声で割って入った。


「パウリーさん」
「あァ!?」
「よろしくお願いします」


そして深々と礼を一つ。
それは見事にパウリーを鼻白ませた。


「なっ、誰がよろしくなんて…」
「少しずつですけどきちんと成長します。
 力仕事も受けられるように体力も付けます。
 ちゃんとパウリーさんにも納得して貰えるように頑張りますので」
「………」
「ほれパウリー、お前もきちんと挨拶せんか」


しっかりと背筋を伸ばして挙げられた顔。
媚びるでも諂うでもない、その真っ直ぐな視線に。
その澄んだ双瞳に。
次ぐ言葉を失ったパウリーは結局。





「───ふんっ、俺は"まだ"認めないからな!!」





にしてみれば憤慨としか判断できないような態度で社長室を出て行った。





「……嫌われちゃったみたい、ですね…」
「なに、気にすることはなかろうて。
 アレは単に、年甲斐も無く照れとるだけじゃ」
「照れ…?」
「ンマー!そんなとこだろうな。
 アイツはあれでどうしてか女に免疫が無いからなァ」
「だからといってあの態度は無礼というものでしょうけど」
「まぁそう言ってやるな。
 …ということで、とりあえずはそういうわけだ。
 の実力については現場で、各自自分の目で確認して驚いてくれ」


その後、恙無く他の職長達と挨拶を交わして初の顔合わせは終了した。

パウリー退出後、実はもの凄く緊張していたのだと言うは、
ハットリの挨拶もといルッチの腹話術にようやく笑顔を零し、
その礼儀正しさを気に入られたタイルストンに勢い良く頭をガシガシ撫でられ、
少しばかりフラフラになったところカリファに受け止められつつも、
ルルの自己紹介に注釈としてハットリから加えられた寝癖の話に一頻り笑って、
ウォーターセブン市長に家まで送って貰ったりなどしてその日一日を終えた。





そうこうして数カ月後。
職長達はアイスバーグの人定眼にやはり感服することになるのだった。



【船大工ラバーさんに10のお題】02いやだ!!

つかコレ、アイスバーグ夢?(聞くな)
いや、アイスバーグさんは凄いんだぞということを書きたかったのかそうでないのか、
書いてる本人にも途中で良く判らなくなりました。(何)

時間軸としては一年前の話。
なのでヒロインは17歳かそこらのつもりで書いてます。
…しかし『少女』って単語は人によってイメージするものが違うので扱いが難しいです。