07.


「お前さんは『大工の心得』を良う判っとるな」


言ってその頭を撫でればは、不思議そうに首を傾げた。


「『大工の心得』、ですか?」
「そうじゃ。しかもそれを"無自覚"という1番好ましい状態で会得しとる」


そうは天才だ。
しかしそれは『怠惰な才能の生得者』という意味ではない。

はこうして基礎的な部分を細かい端々までしっかりと習得し、
日々絶えず努力して、それにまた時機を押さえた応用を利かせ、
その日その日で確実に、着実に実力を付けていく。
自身には自分が努力をしているという感覚は無いようだが、
それがまた真っ直ぐな成長に繋がっているのだろう。
そして、そうした日々の努力だけでなく、
困難や壁にぶつかっても逃げないというその姿勢そのものが更なる修行となっていた。
結果、は周囲が驚く程の成果を、社長が舌を巻く程の成長を遂げた。
それは自分をして『破格の昇進』と言わしめ、
当初、女の大工職を頭ごなしに否定していたパウリーを納得させるほどのものであったし、
だからこそガレーラカンパニーの職人達はを仲間として受け入れた。
今やは、ガレーラカンパニー一の造形技術を持った、
1番ドックになくてはならない存在に、職人となっている。


「自分じゃ良く判らないんですけど…」
「ハハ。だからこそ、なんじゃろう」
「ええと…とりあえず誉められてるんですよね?」
「とりあえずでも何でもなしに誉めとるつもりなんじゃがな」


そしてこの何事に関しても真面目な性格と謙虚な性質が、
特にその成長ぶりに大きく物を言ってるのだろう。
相乗効果といってもいい。
両者共に度を過ぎずに相関するそれは、
実に理想的な形でもって自信と向上心に結びついている。

要するに、は物事に対して純粋なのだ。


「その…、ありがとうございます」
「そういう素直なところもお前さんの美点だな」
「何か誉められてばっかりで恥ずかしいんですけど…!」
「ワハハ」


そう。
こうして照れたように頬を染める表情はどこかあどけなく年相応だが、
その腕はといえば熟練工も顔負けというのだから恐ろしい。


「でも…」
「『でも』、何じゃ?」


この先の成長も楽しみだ。
それは一職人としての正直な感想。

けれど。





「そうした『大工の心得』を私に教えてくれたのはカクさんですよ?」










「やっぱりカクさんは偉大です」


何やかんや言って結局は。
こうして目の前にある手放しの笑顔をこれからも見ていたい。
ただそれだけのことなのかもしれない。



【船大工ラバーさんに10のお題】07:大工の心得

大工の心得といえばやっぱり『あらゆる尺度を弁えること』だと思うんですが、
船大工でも宮本武蔵でもない自分がそれを語るのは不適当かと思いまして。
で、またもやカク本命なもんでこんな感じに(笑)
カクに頭撫でられてー!