08.


ガレーラカンパニー。
ウォーターセブン市長・アイスバーグさんを社長とする世界政府御用達の造船会社。
今の自分の勤務先。

シフト駅付近の線路に引っ掛かって海に漂っていたらしい私。
そこをチムニーとゴンベに助けられて、
そのままココロさんに引き取られてからかれこれもう1年も経つ。
その後ココロさんの推薦を経て、またアイスバーグさんの許可を得て、
最初は見習いとして、また初の女性大工職としてガレーラカンパニーに就職して早11ヶ月。
勤めて初めの半年はカクさんの下で基礎から徹底的に学んで、
7ヶ月目に一船大工として認められ、1番ドックに配属されて今月で4ヶ月目になった。
カクさん曰く『破格の昇進』であるらしい。
そんなこんなで、元より手先の器用さとデザインセンス、
あとどうしてかずば抜けた記憶力をアイスバーグさんに買われて入社した私は、
現在、船の装飾・内装関連を手掛けてる。

仕事はやはり厳しい。
でも、とても楽しい。
それは他でもない、周囲の人達のおかげだと思ってる。

強くて"腕の立つ"ガレーラカンパニーの職人達は皆その"手腕"に誇りを持ち、
それ故に海賊にも権力にも決して屈しない。
だからこそ職人達はウォーターセブンの住人達の憧れの的であり、誇りなのだ。
そんな彼らは腕が立つだけでなく、とても魅力的な人格者でもある。
また面白い人、個性的な人、アイスバーグさん曰くの『性格が妙』な人が多いのも、
人気の秘密なのだろうと私なんかは思う。
職長達なんかは特にそう。
確かに職人気質・昔堅気で少しばかり頭の固い人もいるけれど、
だからこそというべきか、基本的には皆気さくで優しくて、良い人ばかりだ。

そうして運良くも私は、そんな人的・状況的環境に恵まれたおかげで、
こうして手に職を持ち、普通に生活し、何とかやってる。
ううん、『何とか』なんて失礼だ。
とても幸せに過ごしてる。

ただ、記憶の方はさっぱりなのだけど。

海から引き上げられて目を覚ました時、私には何の記憶も無かった。
後になって判明した事といえば、指輪に彫ってあった自分のものらしい名前。
同じく彫られていた生年月日から計算した年齢、あと見てからの性別。
器用と誉められた手先。
人並み外れた記憶力。
そして自分は全く泳げない、要するに天性のカナヅチであるということ。

記憶を無くす前の自分がどんな人間だったか全く気にならないわけじゃない。
知りたいという気持ちは少なからずある。
でも以前の記憶を取り戻した時のことを考えると、思い出したくないと思う気持ちも強い。

実はお陽様の下になんて居られないような凶悪な犯罪者だったらどうしよう、とか。
既に結婚して旦那さん以外にも子供までいたりしたらどうしよう、とか。

───"昔の私"を思い出してしまったら"今の私"は消えてしまうのかな、とか。

今がとても幸せで。
それを失うのはとても恐くて。
後ろを振り向けない自分が確かにいる。

けれど、そうした恐怖心を抜きにしても、
特に頑張って思い出そうと努力する気はあまり無かったりもする。
元より"まったりと前向き"な性質なのだ、おそらく。
楽天家と言い換えてもいい。
『歩きながら目的地を決める』、少なくとも"今の私"はそういう人間だから。
もしもこの先、突然記憶を取り戻すようなことがあればそれを拒むつもりはないけれど、
別段、今必死になって思い出す必要は特に無いのかな、って。
そんな風に考えてる。


「おーい! 飯行くぞー!」
「はーい、今行きまーす」
『今日はパウリーの奢りだポッポー』
「はぁ!? 何勝手なこと言ってやがるこの野郎っ!!」
「ワハハ、それじゃまぁひとつ御馳走になるとしようかのぉ」
「待てコラ、誰が奢るか! 誰が!」
「わーい、パウリーさんごちそうさまでーす」
「お前ら人の話を聞けェ───ッ!!」





大好きな人達とこれからも、少しでも長く一緒に過ごしていきたいから。
だから私は"思い出す"ことも"忘れること"もせずに、一日一日を大切にしながら生きてる。



【船大工ラバーさんに10のお題】08:ガレーラカンパニー

軽くヒロイン設定、みたいな。
たまらずお題を借りてまで書いてしまったワンピの船大工夢。
か、格好良過ぎるよ、船大工ズ…!