「姫さん」
「何?」
「その指、食べちまっていい?」
「指?」
「そう、姫さんの指」
「どんな風に?」
「こんな風に」


されるがまま、運ばれていくこの手。
こちらの無抵抗もあって、何てことはなく佐助の舌の上へと指先が乗せられた。
まるで果実から滴る蜜にでもするかのように、ゆったりと舐め上げられる。
ざらりとした、生温かい感触。
それは第一関節、第二関節を舐め上げ、仕上げとばかりに指を付け根まで口に含んだ。
ああ、この迷彩忍は。
調子に乗ってる。
まるで幼子が甘い飴を食すように佐助はこの指を甘く口の中で転がした。


「もう食べてるじゃないの」


溜め息まじりにも努めて呆れた風を装いそう告げれば、
「こりゃ失敬」などど佐助は人さし指と中指をくわえたまま返して寄越した。


「美味そうだったもんだから、つい」
「あっそう…、それで? 美味かった?」
「もっちろん。俺のはー?」
「はいはい、"巧かった"わよ」


言えば、嬉しげになんて笑った佐助の口から2本の指を引き抜く。
つっと唾液が透明な糸を引いたのを、手首を振るって払い落とし、
またしとどに濡れ切っ2本の指は佐助の胸元へとなすり付けてしっかりと拭き取った。
「…何かちょっと傷付くんだけど」。
くっと、情けない様に眉尻を下げる佐助。
「これは失礼」。
先程の佐助の台詞を利用して味も素っ気なく返す。
それはこの忍へ少しばかり裏返ったの愛情の現れであり、
また僅かばかりの危惧を含んだ己への戒めでもある。
なぜなら、最近妙な甘え癖のついてしまったこの忍を、
良い傾向だなどと解釈しては際限無く甘やかしてしまいそうになる自分が居るのだ。


「まぁ、いいや。ごっそさんでした」


ああ何て"ままごと"な。
己の火傷具合に、どうしたって本日2度目の溜め息を禁じ得なかった。


「しっかし、姫さんって本当イイ脚してるよね」
「…また『美味そう』とか何とか阿呆な事ぬかすつもりじゃないでしょうね」
「お、姫さんイイ勘してるぅ」
「何なの。発情期?」
「姫さんに関しては年中」
「平気で足の指とか舐めそうね…」
「お望みとあらば」


何が『お望みとあらば』か。
これではまるで仕事にならない。
目の前には「ほら、命令してよ」とばかりの忍ぶ気も無いらしい忍の笑み。
それに「そのぐらいにしときなさいよ」と同じく言外にも半眼でじっと見返してやる。
はて、こうしてのほほんと座敷に居座るこの怠慢忍者は、
私の記憶が確かならば武田軍も真田忍隊の長ではなかっただろうか。


「私が甘やかし方を間違えたのか、それとも佐助が甘やかされ方を間違えたのか」
「え? 俺、甘え方間違って、る…?」
「───…、…さぁどうでしょ?
 (こういう佐助の不安げな顔がまたたまらないのよね…)」
「ひ、姫さーん!」





是。
この武田軍真田忍隊長に「姫さん」と呼ばせたくて私は、
今日も彼の泣き言を背に、幸せに口の端をゆるませそっと笑う。



Web拍手お礼だった佐助夢。
どう転んでもエロイ方向に倒れ込む佐助…まぁいいけど(いいのか)