敬愛の足音


君とバス停まで歩いた。
いつものように他愛も無い話をして。
いつものようにバス到着の3分前に着いて。


───君のバスなんて来なければいい。


ふと、そう思った。


「…先生?」


俺が君を意識した瞬間だった。





いつも見えなくなるまでバスごと私を見送ってくれる貴方。
白衣に片手を突っ込んだまま優しく手を振ってくれるけれど。
貴方の目には映っているだけで、私はきっとその瞳の奥には存在していない。

私はまだ、バスと同じ。
貴方にとっては景色の一部。





『わざわざありがとうございました』。
唇だけでそう言って、バスの中から小さく会釈する彼女。
いつも通りバスが最初の角を曲がって見えなくなる瞬間、ふと思った。

───彼女にとって俺は一体どんな教師なのだろう。

『やっと出会えた尊敬できる先生です』
『だめよ森田君。先生は真山君と違って免疫無いんだから手加減しないと』
『ご苦労様です。本当に花本先生ってみんなのお父さんですよね』

胸の中心がつんと引き攣る。


ああ、君にとって俺は。
ただの世話焼きの教師。





バスが角を曲がって見えなくなるまでバス停から見送ってくれる先生。
僅か数秒で先生の白衣が闇夜に溶けきって見えなくなる。
そうしてバスが角を曲がりきり、窓へと貼付けていた指先を離す瞬間いつも思う。

───私は先生にとって一体どんな生徒なのだろう。

『優秀な、自慢の生徒です』
『徳大寺先生……森田と違って常識人ですよ、彼女は』
『すっかりみんなのお母さんだな、は』

胸の奥がとくんと脈打つ。


ああ、先生にとって私は。
ただの世話好きの生徒。










尊敬じゃなくて、愛情に値してくれたらいいのに。



というワケで。
1回キリと言っておきながらリクを頂いたりで調子乗ってハチクロ第2段。

いやホラ、だってこういう行き違いが楽しいじゃないですか、ハチクロは…!(言い訳)