タマヒヨ


「ほら、朝だよ。
 起きて、二人とも」


は良くリベザルと一緒に寝る。
それは寝る前にリベザルがの部屋に訪れることもあるが、
がリベザルの部屋に押し掛けることもしばしばで。
朝、リベザルを起こしに行く座木などは、
まるで『姉と弟』の図という実に微笑ましい寝顔を拝むことになるのだ。
今朝もそれ。


「すー…」
「むにゃ、むにゃ…」
「…参ったな」


しかも今朝はまた向き合って、手をしっかりとなんて繋いでさえいる。
この光景を秋が見たら機嫌を90°どころか270°損ねることはまず間違い無い。
そしてリベザルが試薬実験の贄とされてしまうのだ。
しかし幸いなことに、秋の寝起きは最悪。
秋がこの光景を目にすることは、これが昼寝でも無い限り…


「ふーん…、これはまた気持ち良さそうだね」
「!」


背後から現れた、まるで天使を体現するかのような笑みに思わず背に嫌な温度が伝う。
はて、今は朝の8時であったはずである。
まかり間違っても夜の8時ではない。
太陽はまだ東から昇ったばかりだ。
では何故、秋が背後になど居て、リベザルの部屋を覗き込んでいるのか。
珍しくも静かに取り乱す座木を余所に、秋は壮絶な笑みを貼付けたまま部屋へと侵入した。


「へー。意外と睫毛長いんだ、って」


平穏そのものに寝息を立てる二人の傍らにしゃがみ込んだ秋。
よだれを垂らすリベザルには目もくれず、じっとの寝顔を覗き込む。
そっと白い頬へと伸ばされた指先。
それはゆったりと掠め取るように輪郭を撫でて、そして。


「えいっ」
「う"…」
「………秋」


むにっと摘んだ小鼻。
実に理想的な鼻呼吸で眠っていたの眉間に綺麗に皺が刻まれる。
それは秒を刻むごとに次第に苦しげな表情に変わっていく。


「起きろー、朝だぞー」
「秋…」
「あ、目開けた」
「ぅ…」
「おはよう、
「………」
「やだなぁ、ったら寝ぼけてるよ」
「………」
「ならここは新開発の気付薬を…」
「───ええぇえぇぇえぇ!!?」


悲鳴全開で布団を跳ね飛ばし身を起こした
それは爆睡中のリベザルが身体を跳ねさせ目覚めるほどのもので。
顔を顰めて耳を塞いだ秋を、そのめいっぱい見開いた瞳に映すとは、
ついで背後の座木へと視線を巡らせ、オロオロと慌て出した。


「やだ、私ったら…秋が起きてるなんて、もしかしてもう夕方ですか!?」
「え?」
「ご、ごめんなさい座木さん!!」
「うぇえぇぇ!? す、すいません兄貴!!」
「……言ってくれるね」
「ぷっ。適いませんね、秋も」



ヒロインに調子を崩されまくる薬屋面子は書いてて楽しいっす。
ちなみに『タマヒヨ』は某雑誌のように『タマゴ(リベザル)とヒヨコ(ヒロイン)』。

image music:【愛妻家の朝食】 _ 椎名林檎.