ピーターパンの笛


「でも嬉しいわねぇ、こんな可愛いのが2匹も入ってきてくれるんだから」


「ねぇ、折角だからお茶しない?」、と。
にっこりと問答無用にも、その笑顔に虚を突かれた兄弟を拉致ったは、
薄暗い資料室から一転、明るいオフィスに連れ込んで、
紙コップでなしに、きちんとティーカップに注がれたコーヒーでもって二人をもてなした。


「匹言うな!」
「うわぁ兄さん、僕この身体で初めて"匹"って単位で数えられたよ…!」
「弟よ…」


嬉しそうに頬を染めるアルフォンスに、哀愁を背負って力無くツッコミを入れるエドワード。
そんな兄弟を視界に収めは、「本当、可愛い子犬達ねぇ」とからからと笑った。


「これで殺伐とした軍部生活にも潤いが持てるってもんだわ。
 癒し系というか何と言うか…、むしろオアシス系?」
「いや、ホント意味判んねぇから」


ビシリ、と半眼で裏手でツッコミ。
対してツッコまれたはといえば「そこは想像力を逞しくして自発的に補いなさい」と、
「錬金術に不可欠な想像力の鍛錬になるでしょ?」と、
もう可笑しくして仕方ないとばかりに更にその笑みを深めた。
ちくしょう、またかよ。
先程からペースを狂わされ、敗北感にも似た心持ちを味わいっぱなしのエドワードは、
「大体俺らは旅から旅への根無し草だっての」と、
コーヒーを啜りながら齢不相応な仏頂面で対抗する。
しかし、そんな少年の内心など拙い表情やら仕草やらから筒抜けなのだろう、
は特に気分を害した様子も無く、
胸元のポケットから長細い"何か"を取り出すと、各々一つずつ兄弟に向かって投げ渡した。


「だって弟ができたみたいじゃない?」


それは、2本の万年筆だった。


「「───…」」
「それとも私みたいな"姉"じゃご不満?」
「そ、そんなことないです!」
「………ふん」


「これで、旅先からたまにでいいから手紙を頂戴ね」、と。
確信犯だけれど、明け透けの笑みでもってにっこりと笑った
やられた。
そんなところだろうか。
照れからか頬を染めてむっつりと黙り込んだエドワード。
そんな兄を余所に、素直で礼儀正しいアルフォンスは、
胸の前で両手をわたわたと振って言った。


「その…凄く、嬉しいです。ありがとうございます!」


ともすれば。


「アルフォンス君───…可愛いわ! 合格!」
「え?」
「何が!?」
「未来の婿候補に」
「え? 僕が?」
「何ですとッ!?」


またもや始まる、姉兄弟な漫才。

といると本当に調子が狂う。
それも悪い意味ではない。
むしろ心地良い。
そう、"影響力"とでも言おうか。
それが素であるのか、はたまた故意の産物であるのか、 現時点でその判断はつけられなかったが、
好ましいものであると、兄弟にはそう思わせた。


「これからは兄とでも呼ばせて貰おうかしら…エドワード"お兄様"?」
「うわ、寒イボ立った…っ!!
 ってか、どこまで本気なんだよ!?」
「どこまでがいい?」
「俺に聞くな!!」
「どう、アルフォンス君?
 私のとこに婿入りする気無い? 幸せにするわよ」
「え、えっと…?」


そうして。
「アンタに弟はやらん!」とどこぞの花嫁ならぬ花婿の父発言をし出した兄と、
「それならエドが婿入りする?
 そうしたら、アル君からは『お義姉さん』って呼んで貰えるし♥」などと、
実に男前な切り返しを披露するを、
(二人ともどこまで本気なんだろう…?)なんて、オロオロと見守る弟。

しかし、そんなアルフォンスに助け舟を出したのは。


「こら」


男臭い笑みを浮かべた、三者共通の顔見知りである男だった。


「幼気な少年をたぶらかすなよ、
「人聞きの悪い言い方しないでくれる、ヒューズ?」
「はは、しっかし今のをロイが聞いたら泣くぞ?」
「あら、男を泣かすのはイイ女の特権ってヤツでしょ?」
「特権っつーよりは美徳だな、特にお前の場合は」
「どういう意味よ」


とりあえずは挨拶代わりの憎まれ口を叩き合い、
それも一通り済むと、大人二人揃って意味ありげな笑顔を、
傍観に徹していた兄弟へと向ける。
それは『にやり』、と。
そんな擬態音が相応しいような笑みだった。


「よーし、お前ら。今日はウチで飯食ってけ!」
「何か裏に有りそうな気配ムンムンなんだけど…」
「そんなことないわよ。
 アル君と二人の将来について語り合おうなんて全然考えてないから」
「思いっきりそんなことあるじゃねぇか!!」
「ウチのカミさんの飯は美味いぞ。何たって俺のカミさんの料理なんだからな!」
「しかもアンタはアンタでノロケるき満々かよ!?」





そう、それは。
エドとアルがどこぞの教団相手に大団円を繰り広げる数年前の話。



ぶっちゃけヒューズ中佐が出せたので満足。(笑)