君繋ぎ
エングラム


自分の錬金術は水、ひいては水分に関するもの。
錬成陣無しで錬成できる自分は、それこそ一瞬で人の命を掻き消すことができる。
例えば、身体中の血液を一気に沸騰させたり。
脳を融解させたり。
でなければ一瞬で心臓を乾涸びさせたり。

だから、当然の帰結とも言える。
自分の有能さや、軍人としての適性の高さも祟ってか、
寄って来るものは皆、媚びるか諂う者ばかり。
飽き飽きしていた。
退屈は人を殺せる。
何とも色褪せた人生を、日々無駄に色濃くしていた。

そんな時に彼が目の前に現れた。


「よぉ。そんなつまんなそうな顔してっと美人が台無しだぞ?」


マース=ヒューズ。
当時は中尉だった彼。
その頃中佐という地位に就いていた私に、"冷厳の錬金術師"たる私に、
敬語無しにも実に気安く、もとい気さくに声を掛けてきた。
中央セントラルで私の顔を、噂を知らない者はまずいない。
ともすれば立派な確信犯となる。
何とも、命知らずな。
周囲に居た者達が顔から音を立てて血の気を引かせたのを今も覚えてる。


「生憎、つまらなそうな顔は生まれつきよ」
「なぁに、ちょーっと口の端を持ち上げたらそれだけでかなりイイ感じだぜ?」
「もしかして口説いてるの?」
「まさか。俺にはもう最高の"未来の"カミさんがいるからな」
「あら、見掛けに寄らず愛妻家"候補"なのね」
「ってーと、俺の事は既に御存じで」
「紙の上でだけれど」
「耳に聞く以上のキレ具合だな」
「互いにね」


珍しいことはない、初対面早々の懐の探り合い。
けれどそれは不思議と不快で鬱陶しげなものではなく。
むしろ気付けばどこか楽しんですらいる自分が居た。
そう、普段の自分を鑑みれば非常用的な会話だった。
言うなればまるで数年来の友人とするような言葉の交わし合い。
身も蓋も無いようでいて、色々と含む物のある奥深いバランスのそれは、
とても好ましいものであると、自分にそう認識させた。


「そんじゃまぁ、改めまして…」


言うなり、さっと姿勢と雰囲気を正し、ビシリと模範的な敬礼を決めて見せた彼。


「本日より貴官の部下として配属されました、マース=ヒューズ中尉であります!」


またそれは、先程までの気さくな態度を一変に拭い去るものでもあって。


「御鞭撻の程、宜しくお願い致します!」
「ええ」


面白い。
とんだ食わせ者に巡り会ったものである。
これでしばらくは退屈せずに済みそうだ。
自然と持ち上がった口の端に、
応えるように相手も食えない笑みを浮かべたのを今も覚えている。


「私は知っての通り、よ。
 呼び捨てで構わないわ。敬語もいらない。
 どうぞ気軽にね、"ヒューズ"?」
「んじゃま、お言葉に甘えまして…よろしくな、
「ふふ、よろしく」


その日から、彼は。
私にとっては数少ない、無二の友人の一人となった。





「しっかし、まぁ良く似てるな…」
「何が?」
「いや、同期にアンタと同じ錬金術師の親友がいるんだけどよ。
 そいつに良く似てると思って」
「男に似てると言われてもね…ちなみにどういうところが?」
「今みたいな不敵な笑い方とか、上に対する覚えの悪さやふてぶてしい態度とかな」
「お誉めの言葉として受け取っておくわ」
「はは、特にそういうところが似てるって」



アニメのハガレンは基本的にダメだこりゃとか思ってるんですが、
唯一「やるな…!」と思ったのがヒューズの声優さんのチョイス。
しんちゃんのパパを起用するとは、クソ、やるじゃねぇか…!と。