ただ
そうして僕らは


「「「「明っけましてオメデトーウ!!」」」」


笑顔全開にも弾け飛ばんばかりの勢いで扉を押し開き侵入して来た親友4人を、
ベッド中から出迎えた、もとい出迎えるハメに陥れられた部屋の主の表情は、
心の底から「死なすぞテメェら」と語る凶悪な代物だった。


「───帰れ」
「えー! 酷ーい!」
「それがわざわざ電波時計装備のカウントダウンでもって、
 新年の祝いに笑顔で飛び込んで来てやったダチ達に対する態度かよ!」
「知るか。
 とにかく黙れ。そして帰れ。俺は寝る」
「ムヒョ冷たい〜」
「ムヒョ冷てぇよ〜」
「…もういい。そこになおれ。俺が直々に黙らせてやる」
「ちょ、おま…ッ、その手の魔法律書は何だよ!」


ビュン───ッ


「い"…ッ」
「うわ、寝ぼけてるよムヒョ」
「いくら寝ぼけてるからって、魔法律書を角ヒット狙いでサイドスルーは反則だろ!
 しかもエンチューとビコは初っから射程外な上に、
 射程内でありながらは狙わず、
 完全俺オンリーでターゲティングってのはどういうことだよ!!」
「愛の差?」
「お前も黙れ」


ゴン。


「〜〜〜い、いったーい…ッ」
「見事に角が沈んだな…」
「だ、大丈夫? …っ」
「おいビコ、何か薬とか持ってるかー?」
「さすがにこんな時まで持ち歩いてないよ」
「いくら何でも酷い、ムヒョ!
 女の子の頭に何てことするのよー!
 お嫁に行けなくなったらどうするのっていうかむしろ嫁に行ってやるんだからー!」
「何かちゃっかり便乗して事を運ぼうとしてるね」
「押し掛け女房なんて流行んねぇぞ」
「何よ。私のどこに問題があるっていうの。
 歌はちょっと下手だけど、料理はできるし、性格だって顔同様こんな可愛いし、
 お嫁さんにしたら絶対生涯相互ハッピー間違い無しでしょ」
「そうかぁ?
 俺としては料理が下手でも、もうちっと胸にボリュームのある奥さんの方が…」
「む、胸は乞う期待なの」
「うーん…」
「成長期!」
「成長期ってことを考慮してもCかそこらか…」


胸を押さえてその将来性を主張する
腕を組みつつその胸元を見下ろし吟味するヨイチ。
そうして今まさに熱くバスト談義を交わし始めようとした2人の鼻先を、
鋭く掠めて落ちていった、もとい振り下ろされたのは、
つい先程ヨイチの横面で風を切り、またの頭頂を抉った分厚い魔法律書の背。





「───出てけ」





そしてそれは。
こめかみにはっきりくっきりと青筋を浮かべたムヒョの最終宣告、断罪の剣だった。





「「ごめんなさい追い出さないで下さいお願いしますムヒョ様」」
「ご、ゴメンね、ムヒョ…っ」
「……ふん」
「お詫びにこちらをお納め下さいな」
「何だ…?」
お手製のおしるこだよ」
「凄く美味しそうだよね」
「エンチュー、『凄く美味しそう』じゃなくって実際凄く美味しいの!
 本当は年越し蕎麦作りたかったんだけどねー。
 蕎麦はねー、やっぱり手間がかかるからって厨房借りる許可が貰えなかったの」
「お前のその麺から打とうっていうB型の凝り性気質は嫌いじゃないけどなぁ…」
「ビコと通じるものがあるよね」
「ヨイチもエンチューもそれって誉めてるの?」
「も、勿論だよ…!」
「誉めてる誉めてる」
「どーだか。ねー、ビコ?」
「だね。ちなみにボクは蕎麦の実から作るけど」


愚痴を零しながら廊下へと隠しておいた鍋を取りに行き、
てきぱきとお椀と箸をセッティング、おしるこをよそり分ける
その自画自賛に違わぬできたお嫁さんぶりを眺めながら、背後では、
「卒業するまで蕎麦はお預けだな」とヨイチが笑い、
「楽しみだね」とエンチューが微笑む。
「ムヒョはタヌキとキツネ、どっちが好き?」。
ビコがやはり笑って言う。
「…油揚げは好かねェ」。
不機嫌絶好調な顔のままムヒョはむっつりとそう言い捨てた。


「はい、ムヒョ」
「…おう」
「これで機嫌直して?」
「知るか」
「誰よりも先にムヒョに『明けましておめでとう』って言いたかったの」
「…ヨイチ達と同時なんだから1番じゃねェだろ」
「あ。」
「アホだな」
「ヨイチのバカー!」
「俺かよ!?」


から八つ当たりにも問答無用とばかりに、
お椀一杯に明らかに許容量オーバーな餅を積め込まれたヨイチ。
相変わらずの漫才っぷりを発揮する2人を余所に、
「美味しいね」「隠し味にダシが入ってるんだって」と、
ほこほこもくもくとおしるこを頬張るエンチューとビコ。

去年は大量のみたらし団子だった。
ビコがリクエストしたのだったように思う。
1年前の今日と同じ日、この部屋で、やはり4人に叩き起こされ、
みたらし団子が山と盛られた皿を囲んで騒いだ。
その前の年もそうだった。





「───…どうせお前らが一番乗りなんだ」





来年もまた、確実に。

そんな拙い言葉は、自分に合わせてのことだろう、
甘さの控えられたおしるこをすするのと一緒に胃の奥へと飲み下した。



年賀状企画だったムヒョMLS時代夢。
ムヒョの愛は痛いといい(えー)