スウィート
トラップ


「あの紅茶、砂糖以外に何が入ってたんだろう…」


ぽつりと零されたそんな小さな呟きに、
多少面食らいつつもパウラは、発生してしまった"間"を最小限に処理して回答した。


「…砂糖だけだと思いますが」
「砂糖だけじゃ、"ああ"はならない」


淡々と反論した当の呟きの本人、の視線の先にあるのは空のティーカップ。
つい先程、アポ無しにもへらりふわりと教理聖省を訪れた、
国務聖省も特務分室所属の銀髪の神父が飲み干して行ったそれ。
それをじっと見つめては、口元に利き手を添えると静かに黙り込んだ。


「ですが紅茶に添えて出したのは砂糖、ミルク、レモンの輪切りだけですし、
 あの神父が砂糖だけを使っていたのは貴女もその目で見ていたでしょう?」
「うん」
「確かに使用量は一種冒涜的と言えますが」


パウラが『一種冒涜的』と称したその量は、角砂糖の個数にして13個。
実に紅茶の尊厳を蔑ろにした所業である。
白いカップの底、銀スプーンの先には僅かに付着している紅茶色のゲル、
もとい立派な紅茶のゲルが、その非業ぶりを如実に物語っていた。
そう、このゲルこそが『"ああ"はならない』と示した『"ああ"』に当たる。


「40℃の水100gに砂糖は238g融ける」
「そうですね」
「一般にカップへ注がれた紅茶の温度は60℃程度、
 一般のカップ1杯といったら150cc程度、100gよりも多い」
「お湯は沸騰したものを使いましたし、
 300ccのお湯で2杯分を目安にいれましたからね」
「角砂糖1個の重さも物によるけれど約3.5gとすれば、
 60℃の紅茶150ccに3.5gの角砂糖を13個程度融かしたところで、
 あんなゲル化することはまず科学的にあり得ない」
「………」


表情こそ淡々としているが、じっと空のカップを見下ろし、
実際真剣にありとあらゆる可能性事象を思考しているのだろう
これをあのマタイが見たらどう思うだろうか?
まずあの銀髪の神父の明日は文字通りにも明るいものとはならないだろう。
とりあえず一旦思考を切り上げるようにと、
自分よりも低い位置にある小さな頭を撫でてパウラはこっそりと溜め息を吐いた。



こういう非天然の天然っぽい行動に教理聖省メンツはメロメロなワケです(笑)