雨が降ると、古傷が疼く。


旧傷


「バルト?」
「…あんだよ」
「あらら、不機嫌絶好調って感じ?」
「見りゃ判んだろ。噛み付かれたくなかったらさっさとどっか行け」
「つっめたーい」


鬱々とした気分を持て余して、自室のベッドでゴロ寝をしていると、
タイミング悪くも顔を出したのはだった。

扉には背を向ける形で寝転がっていたため、
億劫げに首から上を半身捻って背後へと視線をやる。
そんな、悪態とほぼ大差無いような態度を向けてやったというのに、
はといえば、さほど気にした様子もなく飄々と部屋の中へと入って来た。
ぽふん、と幾分弾みをつけてベットに腰を下ろす。
あまつさえそのまま仰け反って、俺の腰辺りへとその頭を乗せてくる始末。

のクセの無い髪が肌の上をさらさらと滑ってシーツの上へと流れ落ちる。
それはまるで、降り注ぐ春の雨のように。


「どけよ」
「そうねぇ…」


噛み合ってないと思うのは俺だけなんだろうか。

端から見ればとんでもなく不可解な体勢だろう。
こんな時にシグやらフェイやらに部屋へ入って来られたらたまったもんじゃない。
思って、強行手段に出んと身を起こそうとすればそれより先にが頭を上げる。

そして、静かな声で言った。


「背中の傷が痛むの?」
「───!」


雨が降ると、寒い。
寒くて、背中の古傷が疼く。


「…ああ、痛ぇよ」


傷が疼く度に。
今も震えと吐き気を催す、黒くこびりついた映像が脳裏へと蘇る。

押し潰すような暗闇。
鞭の撓る音。
肉が裂ける感触。
生温い血の温度。

千切れるような自分の悲鳴。


「…っ!」


と。
ふわり、と。
背中に触れたのは感じ知った体温。
の柔らかな体温。
重心ごと預けられた、自分よりもずっと狭い背中。


「…何のつもりだよ」
「どう、あったかい?」
「は?」
「だから。背中の古傷、寒くないかって聞いてるの」
「!」


背中、合わせに。
服越しに伝わるの体温に、鼓動に、言葉に。
その全てから伝わってくるぬくもりに、思わず泣きそうになって寸でで堪えた。

ああ、どうして俺は。
コイツにはこんなにも筒抜けなんだろう。


「…
「何?」


雨が降ると、寒い。
降り注ぐ冷たい雨の音が傷口から流れ込んで、身体中が冷えていく。
冷えて、寒くて、背中の古傷が疼く。
疼いた古傷が、否応無く不快な記憶を引き摺り出す。
甦る痛みに自分を見失いそうになる。

雨の日は、嫌いだった。


「好きだぜ」
「それ、ちょっと聞き飽きたかな。他には?」


けれど。





「───…サンキュ、な」





と居る雨の日は、悪くない。



突発的に書きたくなったバルト夢。
でも基本はバルトvマルーな女なもんで。