グッドラック!


「あ、居た。ちゃん」
「ハイハイなんざんしょ、アレン君?」
「………その呼び方、いいかげん勘弁して貰えないかな?」


は見てからに年上であるアレンのことを、敢えて『君』付けで呼ぶ。

しかしが礼儀も知らない全くの無法者かといえば決してそんなことはなく。
ならばアレンが敬意を払うに値しない人間なのかといえば、
確かに(殊、恋愛に関しては)うだつの上がらないヘタレではあれども、
やはりそんなことはなく。

アレンとしても別段それに不快感を覚えているわけではなかったが、
そこはやはり年上だとか、男だとか、
そんなメンツやら何やらに引っ掛かる程度の感慨はあったりもして。
しかし以前一度、何とはなしにその理由を問い質してみれば、
『シオンがそう呼んでるから』などと、呆気らかんと返されてしまい。
『シオン』なる単語が絡んできもすれば、惚れた弱みにもアレンが反論できるはずもなく、
君づけ呼称は、こうして現在進行形にも存続しているのだった。


「いいじゃないの、そっちだって私のことは『ちゃん』付けなんだし。
 『くん』に対応する概念は『ちゃん』でしょ、やっぱり」
「それは君が僕より年下の女の子だからだよ」
「さぁ、それはどうかしら?
 今や外見から実年齢を容易には推測できない時代だしね。
 というか女性との会話に年齢の話を持ち込む男は、いつの時代も好感度低いわよ」
「え? あ、ごめん」


そしてシオンとはまた違った、そのサクサクとした切り返しに、
どうしたって三枚目であらざるを得ないアレンは、やはり煙に巻かれたりなどして。


「アレン君。今さりげなく話逸らされたって判ってる?」
「───!」


その都度、曰くの『年下の女の子』に、毎度楽しく遊ばれてしまっているのだった。


「はぁ…、そんな人生端から流されっぱなしだからシオンに振り向いて貰えないのよ」
「余計なお世話だよ…───って、
 え、それってつまり、主任のあの"スルー"は確信犯ってこと!?」
「いや、アレは天然でしょ。単にシオンが鈍いだけの話よ」
「よ、良かった…」
「あとはアレン君の資質の問題ね」
「…放っといてよ」


まるで紙の上の漫画のように、背景に暗い縦線を背負い、
俯き脱力してぐったりと肩を落とすその姿。
そんな古典的でお約束なポーズやらリアクションが彼のヘタレたる由縁か。
いじけて壁に"の"の字を書くアレンを眺めつつ、はぼんやりとそんなことを思った。


「アレン君も一応、容姿・性格・ステータスと三拍子揃ってるのにねぇ」
「またアレン君って…、しかも『一応』って」
「まぁまぁ。でも仮定・年下の私に『アレン君』って呼ばれるのはそんなに嫌?」
「そ、そんなことはない、けど…」


そうして器用にも、雰囲気で顔年齢を使い分けるという、
恐るべき顔面技の持ち主であったりするは、
さっきまでのふざけた雰囲気をさっと幾分正すと真面目な声色でそう問い返す。
ともすれば、空気に呑まれて一瞬言葉に詰ませるアレン。

しかし、かと思えば。





「───それとも、『アレン君』って呼んでいいのはシオンだけって?」





不意打ちにも返ってきた、そんな意地の悪いしたり顔に顔を真っ赤に染め上げた。


「そっかー、それなら呼び方変えなくちゃいけないわねぇ」
「〜〜〜ちゃんっ!」
「何でしょーか、アレンくーん?」
「ああもう、またそうやって…!」


けたけたと笑いながらスキップで一歩先行くに、
わたわたと意味も無く両手を振り乱して続くアレン。


「なら何て呼んだらいいわけ?」
「別に、アレンでいいよ」
「『世話女房』は?」
「ダメ!!」
「それは残念」





『君』付け脱出は、当分先の話のようだった。



それでもアレン君としては「妹が居たらこんな感じかな?」とか思ってるんです、ヒロインの事は。
ヒロインは一応(外見・精神年齢は)18歳の設定で書いてるんで。
アレンは24歳だし、年の差もちょうどそんな感じっスよね。
つかぜのコミをクリアした今現在、アレンvシオンが熱い…!(笑)