目に見えぬ尊さ


「なぁ、何でおまえ普段から銃使わないんだよ」


いまだゆったりと硝煙を吐き出す長年愛用の古式銃、
もとい管打式回転銃パーカッションリボルバーの銃口を静かに下ろせば、
隣のJr.は腑に落ちないといった表情で見上げてきた。


「さすがに俺程じゃねぇけど。
 相当イイ腕してんのに。勿体無くないか?」
「あはは、ありがと」


現在位置。
デュランダルの格納庫エリア、武器保管区域の一角にある射撃訓練施設。

着弾具合を確認すべく、的の立体映像ホロを手元に表示する。
久々の感触に多少の不安はあったが、結果は全弾命中フルマーク
6発中5発はまるで手本のように狂いなく、各々の人体急所に。
ただし最後の1発だけが、額の中心から右に2cm程ずれた場所に穴を空けていた。


「…飛び道具は苦手なのよ」
「はぁ?」
「加減ができないから」
「───…」


シリンダーから空になった薬莢を掌へと落とし、一つ一つ新しいものに詰め替える。
その間も隣のJr.は黙ったまま。
否、言葉を失ったままだった。


「こうして趣味として撃ったりするのは好きよ。
 でも実際に銃を"武器として"扱うのは正直、恐い」


自分の腕に自信が無いといったらそうなるのだろうが。
ゼロコンマ単位で敵味方が交錯する戦場において、
一瞬で相手の命を奪う弾丸は、僅かに手元が狂っただけで味方の命も奪いかねない。
自分の人さし指が一瞬で仲間の命を奪う。
それが、恐い。


「…そうか」
「そう。だからJr.のことは凄く尊敬してるのよ?」
「俺を?」


全て弾を詰め替えて、顔を挙げればJr.の複雑そうな表情とぶつかる。
だからそれにふわりと笑いかけて、利き手のスナップを利かせてシリンダーを元に戻した。


「Jr.は弾丸の一発一発に"背負う覚悟"を込めて撃つことができるから」


そして愛用のそれを、その小さな手に握らせた。


「奪う覚悟、保つ覚悟、そして護る覚悟。
 たくさんの覚悟をその一発一発に込めて引き金を引くことができる」
「………」
「ただ引き金を引くだけなら誰にだって、それこそグノーシスにだってできる。
 でもそうして覚悟をもって引き金を引くことはやっぱりJr.にしかできないことだから。
 そしてそれは、今の私にはもうできないことだしね…」


昔、ずっと昔。
自分がまだ一人でこの世界を巡っていた時に手に入れ、
そしてJr.と出会い、共に戦うようになるまで実際に使い古してきたその銃。
文字通りの"戦場"で、一人で生きていた頃の自分が多くの命を奪ってきたそれ。


「だからこれを、俺に…?」
「そう。でもあげるわけじゃない。あくまで貸すだけ」


これは特殊なエーテルガンで、薬莢に火薬は詰めない。
代わりに詰めるのは自身のエーテル力。
だから薬莢も私お手製の特別仕様。
一定の手順を踏めば、空になった薬莢が反応してすぐにエーテルが充填される。
要する弾切れの心配は皆無で、また属性攻撃も可能とそれなりに型破りな代物。

この世にたったひとつの銃。
今がその時だと思った。
Jr.の手に渡すべき時だと、そう思った。


「貸すのは今回だけ、帰って来たらちゃんと返して貰うから」


言って、ウィンクを一つ。
すると言外に込めたその意味合いをしっかりと受け取ってくれたらしいJr.は、
真剣な眼差しを据えて、大きく一つ頷いた。


「この銃で皆を、そしてJr.自身と私を"護って"戦って」
「…ああ」


そう、それは。
必ず帰って来るという、約束の証。





「───行こうぜ、決着を付けに」



一応、天の車直前ぐらいのイメージで。
相変わらずJr.ラブに突っ走ってます(笑)