白晢の狂気
網膜に焼き付けるように映り込んだ、生々しい赤。
「酷い男だよなぁ。
他の女
ペシェに現を抜かして、自分の女
パピオンはおざなりだなんて」
「───ッ!!」
見えなかった。
否、見たくなかった、認めたくなかっただけなのかもしれない。
しかしそんなものは所詮、言い訳に過ぎなかった。
今し方までは、モモを玩んだアルベドの影となり、
またアルベドの思惑により一同の目から隠されていたそれ。
しかしそれも、怒りから暴走まがいに解放されたJr.の力でその白い壁が跳ね飛ばされた今、
明いた背後へと姿を現したのは、古代の玉座を思わせるような機械装置の王椅子。
ともすれば其処に浮かび上がった人影。
見知った、色彩。
「お前もそう思うだろう?」
人間。
頭上で両掌を重ねて打ち付けられた杭。
更に右肩、左大腿、そして右足の甲へと、
突き立てられたそこから流れ滴る血の荊に絡め縁取られ縫い付けられたそれは、
まるで磔られた神子のように。
「なぁ、?」
そう、白く透いただった。
「───アルベドォオォォッッ!!!!」
「いいぜぇ、ルベド…!
心地良い怒りだ…───だが、快感には今少し足りない」
悦楽。
まさに、それ。
力を暴走させつつあるJr.を横目にもアルベドは、
この上なく愉快げにその口元を歪ませの元へと歩み寄る。
歩み寄れば愛おしげにの白過ぎる頬を一撫でし、
その耳元へと唇を寄せると、「ほうら、ようやく王子様の登場だぜ」と甘く囁いた。
がうっすらと瞼を上げる。
その血の気を失った唇が、微かに震えて「ジュニ、ア…」とその名前をなぞった。
アルベドの口元が更に下弦の弧を深める。
「───ッぁ、…っ!」
頭上の杭が、更に壁の奥へと捩じ込まれた。
「に触るなァッ!!」
「ひゃっはっは! いいぞ、ルベド!
大分以前のお前に近づいてきたじゃないか。
けど、まだ足りないなぁ。
あの時のお前はこんなもんじゃなかったろう、えぇ?」
「ア、アルベド───調子に、乗るなぁっ!!!!」
阿鼻叫喚。
猛り狂う笑い声。
荒れ狂う赤い龍。
紫の闇と赤い光が混ざり合って、世界が混沌の色に染まる。
「おぉぉおぉおぉ───!!」
「どうしたルベド、お前という存在はその程度だったのか?
さぁ見せてくれよ、お前の全てを…!!」
「ダメだ、Jr.!
これいじょう挑発にのっちゃ…でないと君は───」
「…ジュニ、ア…っ」
荒れ狂う光の渦に掠れて千切れ、届かないその声。
「お前の声は届かない」
届かない、言葉。
「アイツには届かないんだよ、お前の声は」
届かない、想い。
「俺には届いても、ルベドには届かない」
それは。
「たと、え…届か、なくても、私は…、私は叫び続けるの…」
それはアルベドが初めて触れた、の"痛み"。
「───それぐらいならきっと、自由、だから…」
薄紅色の光が、世界ごと包み込んだ。
本当はもっと色々とグロかったんですが、カットしてこの程度にまで修正。
冒頭でアルベドがヒロインを呼ぶのに使った『パピオン』とは、
フランス語で言う『黒揚羽蝶』のこと。
愛しい蝶々をピンで貼り付けるという形で、アルベドなりに愛でてるわけですな。