ココロ
オドル?
「あれま、Jr.にシオン」
レアリエンの女の子達に頼まれ、
ファウンデーションのパン屋にケーキを買いに行こうと向かったランチでは、
何とも物珍しいペアに出くわした。
「珍しい組み合わせね。もしかして二人でランチ?」
「ええ、そうなの」
「へへっ、妬けるか?」
「そうね…。
私を差し置いて二人きりでランチなんて…酷いわ、シオンの浮気者…っ!」
「そっちかよッ!?」
「あはは、ごめんね」
よよよっと芝居がかった動作でもってシオンへとしなだれ掛かれば、
やはりというか何というか、Jr.がお約束通りにもツッコむ。
そんな私とJr.の日常茶飯事的な、もはや夫婦じみてすらいる漫才に、
シオンが声を立てて笑った。
「ま、冗談はさておき。
お昼まだなのよねぇ…そしたら私も誰か素敵な殿方と浮気しちゃおうかしら」
「何でそうなる!?」
「ふふ、それで誰と浮気する予定なの?」
「うーん、そうね…」
唇に人さし指を当て、わざと考えるような仕草をみせつつ、
「ガイナン理事とか?」と口にすれば「ダメだッ!!」と即刻全力却下を受ける。
続いてケイオス、トニー、ハマーと指折り仲間の名前を挙げるが、
やはりどれもこれも端から却下された。
しかしこんなJr.の反応なんて、"思惑"の"副産物"だったりするから、
そろそろかしら?とJr.との不毛な問答は切り上げ、
シオンへと向き直り、仕掛けたらトラップの本スイッチを入れる。
「───それじゃあ、今頃涙で袖を濡らしてそうなアレン君とか?」
無論、口元に浮かべるのは努めて人の悪いしたり顔。
「あはは、アレン君と浮気かぁ。
素敵な殿方かどうかは疑問だけど、選択肢としては面白いかも!」
………見事に不発、だった。
「………。」
「………。」
「え?どうしたの、二人とも?」
さすがはシオン。
天然記念、もとい原種保護法の対象に指定されてもおかしくないその鈍ちんぶり。
『素敵な殿方かどうかは疑問』『面白いかも』などと、さも爽快に笑い飛ばしてくれた。
これをアレンが聞いたら、滝のような涙を流して足下に湖を築きそうだ。
いや、ここまでくるともはや湖でなしに海か。
「いや…何つーか、ホント不憫な奴だよな」
「二枚目半から三枚目の宿命よね…」
「ああ」
「??」
そうしてJr.と共に、アレン君へといつにない心からの同情を送った。
アレン君はヘタレでこそ。
空振りアレン君と鈍ちんシオンが大好きです。