チェイス!


「あら、
「ほんまや」


ガイナンの居る理事室へと連れ立って向かっていたシェリィとメリィの姉妹。
すると眼前の曲り角から、トレードマークの時代錯誤な白衣を翻らせて走り出てきたのは、
仔細謎めいてはいるが、それでも気さくでさっぱりとしたその性質から、
人間、レアリエンを問わず皆から慕われるデュランダルの天才カウンセラー。


「何やろ、あないに慌てて…おーい、ー!」
「! シェリィ、メリィ」


基本的に冷静で沈着な彼女の、そのいつにない慌てようを認めて、
メリィが片手を頭上で大きく振って声を掛ける。
その朗らかな声に、弾かれたように顔を向けたは、
ちらりと来た道を振り返ったが、
結局は見事なドリフトをきめて二人の元へと駆け寄って来た。


「どうしたの? そんなにも息を上げて…」
「助けて!」
「はぁ?」


そうして、短く一言助けを求めるや否や、走る勢いもそのままにシェリィへとダイブ。
突然、首へとしっかり腕を絡める形で抱きついてきたを何とか受け止めてシェリィは、
ぐっとその眉根を綺麗に寄せて、隣のメリィへと視線を巡らせた。
当然訳の分からないメリィは首を真横に傾げるばかり。

しかしその謎も、数秒後には綺麗さっぱりと氷塊した。





「───、今日こそ脱いで貰うぜ!!」





同じ角から、に数秒遅れて姿を現した、
我らがデュランダルの艦長であるJr.の、そんないかがわしい台詞に。





「───『脱いで貰う』ぅ!?」
「お! メリィにシェリィ。ちょうどいい、そいつを押さえておいて…」
「…ちび様、これは一体どういった了見なのでしょうか?」


端から聞けばどんでもない、時間的にも宜しくない台詞を引っさげ登場したJr.に、
メリィが手放しにも素っ頓狂な大声を挙げる。
対してシェリィはの背を優しく抱き返しながら、
実際には笑っていない凍り付いた笑みをJr.に向け、黒いオーラをじわりと放った。


「は? どういった了見って…」
「ちび様、最低や!」
「はぁ!? いきなり何なんだよ?」
「そういうんは互いの合意があってやろ!?」
「合意って…───な!? ち、違う、それは誤解だぞっ、メリィ!」


メリィにビシリ人さし指を突き付けられ、ようやっと自身の失言に気付いたJr.。
一気に血の気を引かせたその頭をぶんぶんと左右に振って否定する。
が、しかし。
見ようによっては少々はだけているようにも見えなくもない、
そんなのシャツの胸元に、出来合いの説得力など失せるというもので。


「よもやちび様、嫌がるを無理矢理…」
「し、してない! 断じてしてない!」


絶対零度の笑みをその整った顔に貼り付け、
背後に背負った黒いオーラで更に詰め寄るシェリィにじりじりと退け腰で後ずさるJr.。


「オイ、! お前も何か言えよ!」
「いや、なんか面白い方向に話が進んでたもんだから…ついつい聞き入っちゃったわ」
「人事かよッ!?」
「あはは、ごめんごめん」


しかし、ふと見遣ればシェリィの腕の中で小刻みに肩を振るわせているを見とめると、
退けていた腰を引き戻し、反撃、というよりももはや条件反射であるツッコミを入れる。
余裕の無いぶっきらぼうな物言いに、軽く呼吸困難ぎみで振り返ったの目許は、
しっかりと薄い涙が浮かんでいた。
それを利き手の人さし指の先で拭うと小さく謝罪を一つ。
Jr.の元へと歩み寄ると、その赤い髪をくしゃりと撫でる。
その所作に、ダンディズムに反するとJr.がブーイングを寄越したのは言うまでもない。


「…ってことは、違うんか?」
「さっきからそう言ってるだろ!?」
「まぁ無理矢理押し倒されたことが全くないといったら嘘になるけど。
 少なくとも今回のは違うわね」
「───ちび様?」
「わっ、余計な事言うなよ!」
「本当のことでしょうに」


Jr.、命の危機再び。
が腕の中から抜け出たせいもあってか、
先程までは幾分抑えていたそれを、今度は存分に発するシェリィ。
そんな二人を「まぁまぁ」となだめては可笑しそうに笑う。
方や惚れた弱み、方や年の離れた妹のような友人と、両者に心持ちの違えはあれど、
つまるところには滅法弱いJr.とシェリィは、
メリィ共々顔を見合わせて、苦笑。


「はぁ…、俺が言いたかったのは『一肌』脱いで貰うって意味だったんだよ!」


そして、そんな何処かなげやりな口調の弁解を最後に。
4人、揃ってガイナンの執務室へと向かった。





「しっかしが逃げ回るほどの、どんな"一肌"だったん?」
「ああ、例の姉弟説を打ち消すのにどうしても子供が欲しいって…」
「言ってねぇ───ッ!!!」



さりげなく『Do you love me ?』とリンク。
またそんな扱いのちび様。(笑)
本当に可愛いなぁ、ちび様は。