「───…No pain, no gain.」


自分の一撃が、戦闘終了の引き幕となって。
グノーシスが光の泡となって空気に溶けるのを視界に収めつつ、
丸きりの独り言にもこの唇が呟いたのは、そんな英語。


No pain, no gain.


さん」
「ん? なーに、モモ?」
「さっき言ってたアレって一体どういう意味なんですか?」
「"アレ"?」
「はい」


Jr.のそれに準えたつもりが全く無かったと言ったら嘘になるのだろう。
けれども、本当に無意識に、
気付いた時には既に口を突いて出切っていたそんな呟き。
けれど、すぐ背後で支援にあたっていたモモの耳にはしっかりと届いていたらしい。
可愛らしい大きな瞳を上目遣いにも、
モモにしてみれば呪文の詠唱とも大差無いような独り言の、
その意味するところを尋ねてきた。

思わず苦笑が漏れる。
そんな私の脈絡もない表情に、モモは不思議そうに更に首を傾げた。


「あー…、"アレ"ね。
 あれは諺といって、『楽あれば苦あり』っていう意味の古い訓戒なのよ」
「へぇ…」
「そう。楽しいことがあれば苦しいこともある。
 逆に苦しいことがあるのは楽しいことがあればこそ。
 苦しみの後にはきっと楽しいことがある、そう考えれば今よりも頑張れそうじゃない?」
「…はい! 素敵な言葉ですね!」


満面の笑顔。
モモのこういった明け透けの笑顔はとても好きだ。
痛みを痛みとして抱えた上で尚心で笑う方法を、モモは無理解にも心得ている。
それは作り笑いというものを彼女がまだ知らないせいもあるのだろうけど、
それでもその笑顔はとても尊いものであると、私にそう思わせる。


「おーい! モモ、。行くぞー!」
「はーい」
「了解」


けれど。


「No pain, no gain、か…」


小走りに遠ざかっていった小さな背中を見つめつつ、自嘲ぎみに吐き捨てた。

さっきモモに教えたそれは嘘じゃない。
日本語の楽あれば苦ありにあたる英語がこれだ。
それに、語ったポジティブ思考だって全てが全て心にも無い代物というわけでもない。

でも、それでも。





「───ヒトは痛み無しには何をも手に入れることなんてできないのよ」





そう、何一つとして。



『痛み』は、ゼノサーガシリーズを通しての一つのキーワードみたいなので。