無垢の予示


「しょ、曙光───」


驚愕に目を見開いたのは何もシオンだけじゃない。
ただそれを声に出したのがシオンだけだった、それだけのこと。
デュランダルのブリッジに居る面々は、人間レアリエンを問わず皆一様に目を見張っている。
それもそのはず。
文字通りの神々しさでもって、突如グノーシスの大群の中へとゲートアウトしてきたのは、
ヴェクター本拠である自由軌道コロニー、曙光。
加えてヴォークリンデII、ヴェルグンデ、フロースヒルデの対グノーシス最新鋭戦闘艦三隻。

まぁ私はといえば、こうして見事に顔を顰めているわけだけれど。


「…相変わらず、可愛げの無いタイミングで出てくるわね」
「は?」
「どういう意味だ、それは?」


嫌悪も赤ら様にそう呟けば、
隣に居たJr.が、そしてガイナン理事が耳敏く私の言葉に反応する。


「『曙のように姿現すおとめは誰か。
  満月のように美しく、太陽のように輝き、
  旗を掲げた軍勢のように恐ろしい』」


不快感を包み隠さずに言い捨てれば、Jr.がぐっと眉根を寄せた。


「どっかで見たような…」
「何の一節だ?」
「私の蔵書の中にありますよ。時間があれば探してみたら?」
「あのなぁ、お前のあの蔵書の中からたかが一節を探し出すなんて、
 それこそウチのプライベートビーチから砂金の一粒を探し出すようなもんだぜ?」
「あら、『一粒の砂の中に世界を見る』なんて素敵じゃない?」
「『世界を見る』…───聖書か?」


私、Jr.、ガイナン理事の会話中には、よく古書の引用が飛び交う。
メリィなんかには毎度関心したような、
はたまた呆れたような感嘆を寄越されてしまうそれは、
こんな状況の中でも無駄に健在だった。

しかし、さすがはガイナン理事。
それとなくブレイクの詩を引いてみせれば、何てこともなく解答を導き出した。
ガイナン理事の言葉に、はっとした表情でJr.が顔を挙げる。
しかしその表情はすぐに苦いものを嚼み潰したような代物へと変わって。
「しまった先を越された」、そんなところだろうか。
相変わらず負けず嫌いぶりに苦笑が零れた。


「御明察。さすがはガイナン理事。
 まだ空きがあるようだったら是非お嫁さん候補に立候補させて頂きたく」
「はぁ!?」
「俺的には歓迎するが」
「ガイナン!」


そういえばガイナン理事は私の蔵書の中でも、ドイツの詩集を特に気に入ってたっけか。
今度、リルケ辺りを勧めてみようかな。
緊急事態にも拘わらず、Jr.のブーイングを背景に暢気にもそんなことを思った。



雅歌6.6-10より。
ってなワケで、突拍子も無く真に勝手ながら、
ゼノサーガでは攻略やトークやらでいつもお世話になってるいかいかサンへ。
甘くないSSなんで…大丈夫、だと良いなぁ、と…(笑)