「…馬鹿。
 勝手に、殺さないで…」
「───!」


涙が嗚咽に。
嗚咽が慟哭へと変わった頃。
この鼓膜へと届いたのは掠れ切った女の声だった。


、お前…ッ」


死んだと思った。
手応えは確かにあった。
大体、避けるどころか自ら防御を完全に捨て去って、
とどめの一撃をその身に受けたのは他ならぬなのだ。

何故。
何故、何故、何故。


「甲、太郎」


細い腕が、この首へと回される。
優しく、柔らかな包容。
鼻を刺す血の臭いと、その痛みを和らげる白薔薇の香り。





「───…やっと、つかまえた」





慟哭が嗚咽へ。
嗚咽が涙に変わった頃。
再度この鼓膜へと届いたのは掠れ切った、けれど酷く満足げなの声だった。





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